ぼんやり考察してみよう

日々考えたこと、映画感想、評価などを記しておくブログです。WPから移転しました。

黒い箱のアリス

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◆黒い箱のアリス

評価:微妙

点数:40点

ネタバレあり

製作年:2017年
製作国:スペイン

★あらすじ
スペインの新鋭、サドラック・ゴンザレス=ペレジョン監督によるSFスリラー。
父親が起こした事故で母親の命と自らの右腕を失ったアリス。周囲に心を閉ざした彼女はある日、森で巨大な黒い箱を発見する。
中には自身の筆跡で書かれた手紙が入っており……。

★一言感想
原題は「BLACK HOLLOW CAGE」

食事を運ぶ老人が、目出し帽の不審者に背後からバットで襲われ滅多打ちにされる――衝撃的な場面から、物語は幕を開けます。

画面が暗転して、アリスの登場。技師らしい人物が、欠損した彼女の腕に義手を装着します。筋電位ないし脳波を読み取っているのでしょう、義手のランプが青色に点滅して、ぎこちなく動作します。技師は、、三種類の円筒を用意して、義手で上手に掴む訓練を行うよう勧めますが、アリスは乗り気ではない様子。

訓練を勧める父親に反発したアリスは、円筒を蹴散らして、ママ(わんこ)と一緒に散歩に出かけます。その途中、彼女は森の中で、不気味な黒い立方体を発見するのでした。

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※タイトルでもある『黒い箱』

ううむ……どうしたものでしょう、この作品は。
とりあえず、良い部分、悪い部分を箇条書きにして、思考を整理してみます。

■良い部分
1.ママ(わんこ)が愛らしい
お母さんは何故か犬で、首輪についた機械を通して、普通に会話ができます。ソフトバンクのお父さん犬ならぬ、お母さん犬であります。もっふもふですよもっふもふ!

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※か、かわいいお母さんですね?


2.カメラワークと美術が見事
引いたカットで撮られるアリスの暮らす家は間取りからしてお洒落で、微に入り細に入り、アーティスティックです。黒い箱に入って時間を遡行したアリスが、どの時間軸のアリスなのかを衣装の色彩の濃淡で表現するところなども凝っています。

■悪い部分
1.長回しが多過ぎる
雰囲気を出すためだと思いますが、長回しのワンカットを濫用しており、テンポを著しく損なっています。しかも劇中、音楽はほぼなし。眠気を誘うため、疲れている時に見るのはお勧めしません。


2.設定が説明不足で所々意味不明
物語の内容は理解できるのですが、土台となる設定があまりにも説明不足というか、そもそも最初から説明する気がないため、意味不明になってしまっております。本家『アリス』の幻想狂気の世界観を踏襲したと好意的に捉えても、映画作品として不親切が過ぎます。黒い箱の正体が明らかにならないのは仕方がないとして、何故アリスは弟を刺した後、姉に無抵抗で刃物を手渡して刺されたのか? 何故頑なに警察を呼ばないのか? など、登場人物の行動自体に疑問を覚える点も多々ありました。

総合すると、良い部分より悪い部分が上回ってしまいますね。特に、物語の内容が薄いのにも関わらず長回しなどの勿体ぶった演出を多用しているのはよくないです。時間遡行を題材としたSF作品として見ても、無意味に長尺で、ごちゃついているのは否めません。全体に漂う、静謐な雰囲気はよいのですが、細部の矛盾を雰囲気の鎧で覆って誤魔化しているように思いました。

間違いなく唯一無二な作品ではありますが、映画として面白いかどうかはまた別の話、であります。雰囲気に酔いしれる事ができるなら、或いは。