ぼんやり考察してみよう

日々考えたこと、映画感想、評価などを記しておくブログです。WPから移転しました。

トールマン

f:id:unknownhuman:20181026235604j:plain

◆トールマン

評価:良作

点数:70点

ネタバレあり

製作年:2012年
製作国:アメリカ/カナダ/フランス

★あらすじ
広大な森と迷路のような地下壕に囲まれた炭鉱町コールド・ロック。
6年前の鉱山閉鎖で急速に寂れ、貧困と静寂の中で死を待つばかりのこの町から、次々と幼い子供たちが消えてゆく。犠牲者は既に18人。誰が? 何のために? 謎は謎を呼び、人々は正体不明の子取り鬼を"トールマン"と名づけた。
町で診療所を開く看護師のジュリアは、ある晩、自宅から何者かに連れ去られた子供を追い、傷だらけになりながらも町はずれのダイナーに辿り着く。そこに集う住人たちの不可解な行動。やがて、全ての謎が解け、想像を絶する真実が明らかになったとき、"トールマン"は忌まわしい伝説と化す――。

★一言感想
原題は邦題と一緒であります。

例によって例の如く、ネタバレ厳禁の作品であります。未見かつ、今後本作を鑑賞する予定があるようでしたら、ブラウザバックを推奨いたします。





ジュリアが怪人物を追いかけるくだりでは「成る程、トールマンって怪人が子供を誘拐する物語なのか」とそのまま受け取り、ジュリアがダイナーの二階で子供の写真を見付けた時には「えっ、何これ、全員トールマンの味方? 警察もグルで、町ぐるみで隠蔽しているやつ?」と首を傾げ、トールマンの偽物がフードを取ったら「あなたはあの時の……!?」とびっくりして。見事なまでに、製作陣の手のひらの上で踊る私なのでありました。

ジュリアは誘拐の被害者と見せかけて、誘拐組織の一員であり、加害者なのですが、構成の妙により、世界が二転三転するような感覚を味わえます。また、寂れた炭鉱町コールド・ロックの舞台設定も完璧な形で物語に生きております。

f:id:unknownhuman:20181028151208p:plain
※いかにも寂寥感漂うコールドロックの街並み

とにもかくにも、構成が素晴らしいです。よく見れば、パッケージ写真もミスリードが入っておりますね。本編視聴前は、ジュリアの背後に迫る怪人トールマン、に見えますが、本編視聴後は、ジュリアとトールマンが重なっているのだとわかります。

ジュリアたち、チームトールマンの動機は一風変わっていて『劣悪な環境にいる子供を他の里親に引き渡すため』に子供を誘拐しています。里親は総じて富裕層のため、コールドロックから“消えた”子供たちは、新しい親の元で、何不自由ない生活を送る事ができる、そういう計画です。ジュリアは自らの正義に殉じて、チームトールマンの存在を隠して、一人で罪を被るのでした。

正体不明の誘拐犯が大暴れする映画だと思ったら、なんとも重い物語でありました。

貧困の再生産とは言いますが、単に貧すれば鈍するで、貧困の結果として環境が劣悪になっているのであり、因果関係が逆転しているように思います。劣悪な環境と一口で言っても、他人が主観で適当に判断してよいものではなく、ネグレクトを含む虐待などの客観指標を基に、法に則って親権を奪うのが理想でありましょう。

と、ここまで書いて気付きましたが、親権を奪ったところで、養護施設に行くしかないとか、親戚をたらい回しになり肩身が狭いとかで、その子が今後、幸せになれるかどうかはわかりませんね。いやしかし、いかなる大義名分があっても誘拐はいけません。当然非合法活動なので、チームトールマンを支援する富裕層も、どうも一筋縄ではいかないというか、信用できないように思います。

ジュリアは「行政が動かないから私たちが動くしかない」と言っておりましたが、自分の意思で家出したジェニー以外は、小さな親切大きなお世話、ってなものではないでしょうか。ラストの彼女の問いには『それは、あなたの心が決める事です』と答える他ありません。