ぼんやり考察してみよう

日々考えたこと、映画感想、評価などを記しておくブログです。WPから移転しました。

ボイス・フロム・ザ・ダークネス

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◆ボイス・フロム・ザ・ダークネス

評価:微妙

点数:45点

ネタバレあり

製作年:2017年
製作国:アメリカ/イタリア

★あらすじ
ゲーム・オブ・スローンズ』のエミリア・クラーク主演によるホラーミステリー
1950年代、イタリア。ヴェレーナは住み込みの看護師として雇われていた。心を閉ざした少年・ジェイコブの世話をする彼女は、屋敷の中で不気味な声を聞くようになる。

★一言感想
原題は「VOICE FROM THE STONE」
ストーン、だと面白味に欠けるのでダークネス、に改題したのでしょうか。

住み込みで働く看護師のヴェレーナは、精神的に問題を抱えた子供たちをケアするのがお仕事。今回の仕事先は霧深い古城、ロチョーザ城。彼女はここで、母の死以来一切の言葉を発しなくなってしまった少年、ジェイコブのケアをする事になるのでした。

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※舞台となるのは、不穏な気配漂うロチョーザ城

うーん……評価に困る作品です。雰囲気は良く、映像も美しいのですが、物語としての緩急がないせいか見所はあまりなく、退屈で、眠くなります。独特の酩酊感と言いますか、不気味な世界に迷い込んだ感覚はありますが……それだけであります。好きなところもあるにはあるものの、映画作品に物語としての完成度を求める私としては、辛めの評価をつけざるを得ません。

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※絶対に笑ってはいけない古城24時

ラストは、ヴェレーナに何が起きたのか、曖昧にぼかしたままエンディングを迎えておりますが、作中の描写から、自ずと解釈は絞られます。

解釈1.ヴェレーナは前妻の亡霊に肉体を乗っ取られた。
本命となる解釈です。ピアノは弾けないと言っていたヴェレーナがピアノを弾きこなしている事、リリアをはじめとする使用人たちの亡霊が実際に出現している事、などから、確定でありましょう。前妻の魂はヴェレーナという依代を得て、現世に戻って来たわけですね。前妻が黒魔術に傾倒していたとかそんな描写はなかったため、現実問題として、どのようにヴェレーナを乗っ取ったのかは不明であります。もしかすると、リリアの自殺も、ジェイコブ少年の沈黙も、前妻が新たな器を得て復活するための儀式であり、契約だったのかもしれません。

解釈2.ヴェレーナは自ら前妻の代役となる事を選んだ。
次点となる解釈です。自分と前妻を重ね合わせたヴェレーナは、自称死者の声を聞く少年ジェイコブに感化され、ゆっくり、しかし確実に、狂っていきます。深淵を覗き込む時、深淵もまた貴方を見つめているのです。作中でのクラウスの指摘通り、ジェイコブを治療するつもりが、ヴェレーナ自身が病んでしまったわけですね。この解釈の強みは、オカルト要素を徹底排除できる点にあります。ジェイコブとヴェレーナの聞いた“声”は全て幻聴、使用人の亡霊は病んだヴェレーナの幻覚、で説明がつけられるのです。但しこの解釈では、前妻の意味深な遺言は何だったのか、ピアノ素人である筈のヴェレーナがピアノを弾きこなしているのはどういう事なのか、に説明がつかないため、1の解釈の方が物語としては自然でありましょう。

解釈3.ヴェレーナはあえて前妻のふりをする事にした。
おまけの解釈です。解釈2との相違点は、ヴェレーナは狂っておらず、正気であった、という事。ヴェレーナは何もかも知った上で、狂ったふりをしてまで、家族の一員となる事を選んだ……そういう解釈になります。視聴者としては後味は一番良いですが、やはり前妻の遺言はなんだったのかとなり、ヴェレーナが最後に見た、自身が埋葬される悪夢などの説明がつかないため、解釈としては落第点です。無理矢理ハッピーエンドで脳内補完するなら、といったところでしょうか。

ところで、老婆がヴェレーナに、破れた洋服の代わりに亡妻のワンピースを着る事を勧める場面があるのですが、その直後、亡妻のワンピースを着ている姿を主人のクラウスに見咎められた瞬間、老婆は画面から消え失せます。そして彼が立ち去った途端、しれっと画面外からフェードインする老婆。この描写には違和感を覚えると同時に笑ってしまいましたが、彼女が既にこの世にいない事を示す伏線だったとは思いませんでした。